前2回の記事では、, デジタルツインの定義と特徴を探りました。それらを片付けたので、今日はデジタルツインのコンセプトをさらに深掘りして、デジタルツインのメリットをご説明します。
空間知性 とは、「適切に構造化された視覚イメージを生成、保持、取得、変換する」能力のことです。結局のところ、Beamoのデジタルツインは組織のすべての空間について、どのように構成が変わり、どのように配置が変わり、どのように使用されたかを、現場に赴くことなく常時すべて把握しています。目標は、空間をキャプチャーして拡張し、空間内でより優れたコラボレーションを実現することです。
デジタルツインは、空間についての知識を同期させ、すべてのユーザー間での統一を保証して、状況に即した統一知識プラットフォームを提供する最良の方法といえます。これは知性ないし知恵のリポジトリのことで、実行可能な空間の統一的理解を意味します。
それでは、デジタルツインで何を実現できるのでしょうか。
デジタルツインの種類に応じて、以下のような多くの用途とユースケースに対応可能です。
上記のすべてのユースケースは、相互に関連する3つのカテゴリー:空間、データ、人、に分類できます。
「空間の」を意味する英語の形容詞「spatial」は、「空間を占める」という意味のラテン語「スパティウム(spatium)」に由来します。一部の大組織の施設管理部門や不動産管理部署では、空間内の配置や、フロア数・部屋数、内部に設置されている機器を正確に把握してない場合があります。把握しようと試みないからではありません。実際、管理対象の施設数が多い場合には、床平面図に記されていない部屋が存在することは珍しくなく、現場に赴いて直に確認する必要があります。世界規模で管理をしたら、こうしたブラインドスポットは大変な規模に昇ります。必要ない家賃や光熱費、あるいは使用されていない機器のメンテナンス費用を支払っている可能性があり、これは組織の収益だけでなく、持続可能性、生産性、安全性の目標にも影響が及びます。とどのつまり、現場に実際に存在しているものと、現場から離れた場所で記録に残されているものとに、齟齬が生じます。
空間管理改善の最初のステップは、施設管理者たちがすべての不動産で情報を共有することです。第二のステップは、必要な頻度で空間を正確にキャプチャーする簡単で一貫した方法を実現することです。
キャプチャーソリューションは、スナップショットシステムをサポートし、望みどおりの間隔でデジタルツインの完全あるいは部分的なバージョンを簡単にキャプチャーできなければなりません。スナップショットは細部を十分に確認できる高い解像度で、その場を忠実に写真で再現できることが必要です。ただし、パフォーマンスが低下してはいけません。後から経時的にスナップショットを比較して、相違を確認できます。専用サーベイキットと組み合わせれば、既製品の360度カメラで十分に良好な画像が得られることを確認しています。
プロジェクトを成功させ、施設管理者どうしのコラボレーションを効率的なものにする上で、情報の不一致や正確性の欠如が大きな問題になります。データドリブンな意思決定が行われる世界では、関連情報の収集、整理、提示が究極的に競争優位をもたらします。
企業間でデジタルトランスフォーメーション競争が行われており、紙からデジタルドキュメントへの移行は組織の主要な成熟指標になっています。しかし、建設業や施設管理業では、デジタルドキュメントに簡単にアクセスして取得できる直観的なリポジトリは実現が困難です。実際問題として、ドキュメントが現場で自由に手に入ることが主要な要件になっています。
理想的なデジタルツイン技術は、ドキュメント、データ、仲間内の知識という3種の情報をまとめて、整理する上で有用なものです。
施設の記録管理の完全性を確保するためには、床平面図、作業やメンテナンスの報告書、施設ハンドブック、マニュアルなど多くの文書が必要になります。驚くに当たりませんが、現在、こうした情報の95パーセントは紙に記録されており、工場長が退職したら、工場長のファイルキャビネットに保管されていた貴重な情報も霧散してしまう可能性があります。しかも、企業のドキュメント量は毎年倍加しているので、縦割りのリポジトリでの配置ミス、重複、フォルダの無秩序な増殖という正真正銘のリスクが存在しています。
解決の鍵は、現実を模倣した空間配置型リポジトリにドキュメントをまとめて、状況を明らかにすることです。外部データベースから直接デジタルツインにファイルのアップロードやリンク付けが可能で、ドキュメントは特定の施設、フロア、部屋、機器に添付されます。この方法で、見つけたい場所で情報を取得できるようになります。情報はややもすると不明瞭なフォルダ構造内に収納されているのではなく、具体的な場所に添付されているのです。機械の場所までバーチャルに歩いて、実際の状況に即して必要なドキュメントをすべて表示させることができます。
物理的な世界はIoTやIIotのセンサを介してデータをクラウドに送信します。キャプチャーされたデータはバージョン別に編集され、リアルタイムでアクセス可能ですが、物理空間に関連付けられたデータの視覚的な状況についての情報はありません。センサデータを直接デジタルツインに統合することで、リアルタイムで簡単に施設の脈を取り、アセットの健康を監視できます。施設管理者は空間データを使用して、組織全体の誰もが同じデータにアクセスして、データの生成場所という状況に即して同じデータをもとに意思決定できるような状況を生み出すことができます。
熟練労働力の50パーセントが引退直前で、新世代の労働力は職場を渡り歩く傾向があるという状況下で、文書化されていないあるいは社内の他のスタッフにあまねく知られていない、誰かの頭の中に保管されている情報、すなわち「仲間内の知識」を保存することが非常に重要になっています。きわめて大量の知識がさまざまなチームに分散している状況で、この古くて新しい悲劇に個人が重要な役割を果たしています。
たいへん重要な場所で何が起こっているかは、実際にその場に赴かなければ誰にもわかりません。チームの新たな一員に仕事の手ほどきをするのは退屈な作業で、チームリーダーは説明を繰り返す必要があります(工場フロア内の場所へのアクセス方法、さまざまな機器を目にできる場所など)。仕事に時間の制約がある場合は、すべての場所に赴くことは不可能ですし、全員に教え込めるわけでもありません。時間の経過とともに喪失しかねない情報を収集・整理し、誰でもアクセスできるようにすることが課題になります。
解決の鍵となるのは、組織をあげて仲間内の知識を取り込んだ、信頼できる唯一の情報源として機能する直観的な空間配置型リポジトリです。ヒント、コツ、日々のノウハウを該当する場所や物に結び付け、情報と知恵を橋渡しし、現在世代と将来世代の従業員が利用できるようにします。
熟練労働力不足が加速する状況下で、現場と他の場所のやりとりが足らないことは、とりわけこのパンデミックの時期に、グローバルな企業リーダーの最大の懸念事項になっています。
一方では、複合的なプロジェクトの管理に際して、内部・外部のステークホルダーとの調整が重要です。他方で、現在の移動規制や人々の安全が企業の重要な考慮事項になっている状況を考えると、いつでも専門家が現場に赴いて施設の状態や作業の進捗状況を確認できるとは限りません。
解決の鍵となるのは、現場の人員が空間のキャプチャーを通じて、リモートの社員や他のステークホルダーとコラボレーションでき、リモートでの調査、検討、管理、意思決定が実現できるデジタルツインです。
サイバーセキュリティやIoTといった先行分野と同様に、実際に業務にデジタルツインが必要となることは、自ら取り組むようになるまで、ありません。環境、社会、経済、技術にかかわる機会や脅威による圧力が人やシステムにのしかかってきたときに、このニーズが生まれます。新型コロナウイルス感染症はこのプロセスを大いに加速させ、興味深い認識対象に過ぎなかったデジタルツインの爆発的な勃興をもたらしています。現場に直接赴けないことと、実用的な代替手段となる総合ツールが存在しないことが主たる推進力として働き、デジタルツインはユビキタスのパワーに次ぐ最良のツールとしての地位を占めるようになりました。
将来的には、デジタルツインはかつてないほどに可視性を高め、コラボレーションを高度化し、拡張現実や自律ロボット工学などの次世代の応用分野を育む場となるでしょう。