何十年も出回っている概念とはいえ、デジタルツインは新たに勃興してきたコンセプトで、真の牽引力が見られるようになったのは今回のパンデミックを契機としてのことです。デジタルツインは2020年のトレンディキーワードで、2021年の技術トレンドでは既にトップ5にランクインしています。みなさんはきっと1日おきにそうしていることでしょうが、周囲の人とデジタルツインについて話してみると、相手の方のバックグラウンド、産業、専門知識によって、まったく別のことを語っているという結末に至りかねません。簡単なたとえだと、キムチのレシピと同じくらいたくさんの解釈があるわけです。実際、デジタルツインという概念にはさまざまな風味や素材が伴っており、それらは実現しようとする辛さの程度や、個人や組織が期待する健康上のメリットに大きく依存します。そのような事情ですので、一緒に白菜の先へと向かいましょう。
急速な成長を遂げる刺激的な新分野ならどこでもそうでしょうが、デジタルツイン業界もなんらかの形式の標準化、枠組み、規制によって推進されるという状況には至っていません。今もって、だれでもつかみ取ることができる状態ということです。現時点で魔法のレシピは存在せず、デジタルツイン・エコシステムのアクター(つまり、あなたや私)が力を合わせて市場の認知度を高め、市場に行動を促せるかどうかにかかっています。とどのつまり、デジタル化をこいねがっている世界がそっくりそのまま残っているのです。
いくらか調査した上での私の最初の直観として、デジタルツイン・コンソーシアムの定義に賛同します。そこでは、デジタルツインとは、「現実世界のエンティティやプロセスを特定の頻度と忠実度でもって同期させた仮想表現」とされています。
現実世界のエンティティやプロセスを特定の頻度と忠実度でもって同期させた仮想表現。
この定義の説明で、デジタルツインについて最初に考察する必要があるのは「それは何か」という点です。この定義では、用語「エンティティ」(物理的「アセット」を言い換えた言葉)は、「プロセス」(「アセット」どうしを結び付ける一連のアクション)を完了させます。通常は同じように考察対象となる用語「システム」は、ここでは暗示的にしか示されていません。初めにこれらの用語を考察してみましょう。
アセットのデジタルツインとは、部品、機器、機械などの物理的な物体のデジタル化を指しており、その対象は道路、建物、土地区画や既存のあらゆる場所一般といった全不動産にまで及びます。これらのアセットの現状や全般的な稼働状態の良好さをリモートで監視できます――簡単ではありませんか?
プロセスのデジタルツインとは、定められた結果を生み出すための一連のワークフローの協調を再現することを指します。その例としては、工業生産プロセスの製造ラインにおいて、個々のアセットのリアルタイムデータを取得して、それらを組み合わせ、分析した上で生産を最適化し、ダウンタイムを回避します。
システムのデジタルツインも考察対象になります。特定の目的から導き出される有形・無形の価値を創出するような、アセットとプロセスを組み合わせたシミュレーションを指しているからです。輸送システムを例にとると、飛行機などの個別アセットを発券や保守といったプロセスと結び付けることで、人や物をA地点からB地点まで運搬するという全体としての価値を持つシステムが構成されます。
そして、ここからキムチが本当に辛くなってきます。 それは視点という問題です。 個々のアセットはそれ自体がある種のシステムとなり、プロセスはさまざまな機器やアセットその他を協調させます。空間や建物を例にとると、スマートエネルギーやウォーターグリッドを監視するスマートシティ・システムの建設を目指すとき、建物はアセットになります。天然ガス液分留プロセスの監視を目指すとき、建物はプロセスにもなります。製造工場のように、さまざまな部品やプロセスが移動しつつも相互のつながりを保つシナジー状態の監視を目指すとき、建物はそれ自体がシステムにもなります。究極的には、データセンター(セキュリティシステム、データ管理システム、電源システム、冷却システムその他が共存している)のように、複数のシステムが1つの空間ないし建物に共存することもあります。
このような観点から、デジタルツインが秘めるとてつもない規模と可能性については、あなたが何を必要とし何を実現したいと望むかに応じて、実現に向けた推進力が生み出されます。これは私たちBeamoがとりわけエキサイティングだと考えている点です。しかも、あなたの要件を定義し、あなた自身のデジタルツインを創造する機会が、あなたには与えられています。
今日はここまでです。来週 はデジタルツインについてのBeamoの解釈を披露いたします。少々道に迷ったような思いになっている方は、『メン・イン・ブラック』のエンディング(1997年)をご覧くださればわかるでしょう(ネタバレ注意―ちゃんと言いましたからね)。